◆ LotR：FotRに捧げる言葉 ◆
| 初めて映画館にこの映画を見に行こうと思ったきっかけがなんだったのか、正直今となっては思い出せない。 その年の４月から勤務体系が変わって夜勤になり、平日の昼間に自由な時間が持てるようになったこと、指輪物語、という存在を知っていて手に取ったこともあったのに読むのをやめてしまったこと、予告編の映像に出てくる女性がやたらと格好良かったこと。 でも、芝居を観るためなら千里の道も厭わない癖に、映画のためとなると１００メートルでさえうっとうしがるこの私が、なぜ映画館に行ってみようと思ったのか、その決定打は、やはり、思い出せない。 もちろん映画館に映画を見に行ったことがないわけじゃない。テレビで話題作が放送されれば見るし、レンタルビデオで面白そうな映画を借りてみるのも嫌いじゃない。 でもそれで終わりだった。 私はある時はさっぱりと、ある時はぐったりと映画館を出、テレビのチャンネルを変え、ビデオの電源を消した。それで終わりだった。２度繰り返して見ることはなかった。あったとしても、好きなシーンだけを巻き戻したり、早送りしたりしてその好きなシーンの良さを堪能した。わかっているストーリーを、役者が生で目の前で演じているわけでもないのに、２時間、もしくは３時間もの時間をただじっと過ごすなんて事は到底考えられないことだった。 だから、この映画を見たときも、面白かった、と顔をほころばせて映画館を出て、それで終わりになるはずだったのだ。 でも、この映画はついてきた。私が家に帰り、布団に入ってもまだついてきた。ホビット庄の緑、忘れられない夜、風見が丘の白と黒、裂け谷の美しさもみんなついてきた。モリアの闇、バルログの迫力、ガラドリエルの水鏡もついてきた。フロドの青い眼、サムの声。アラゴルンは戦い、ガンダルフは微笑んでいた。みんな私の頭の中に居着いてしまった。 もう一回見に行こう、同じ映画を２度も見に行くなんて、今までの私には考えられないことだけど、でももう一回あの世界に帰ってみたくて仕方がない。だからもう一回だけ。２回見れば、きっと満ち足りるはず。 そう思って、１週間も経たないうちに、もう一度私は映画館に出かけた。 そして、つかまってしまった。指輪に。中つ国に。あの世界に。 トータルで１０回、私はこの「ロード・オブ・ザ・リング」を見るために映画館に通った。もちろん、こんな事は今までなかったし、これからもないと思う。何回見ても飽きることはなかった。ＤＶＤが出て、勿論そこからも何遍でも見ているから、何度この映画を見たのかもうわからない。 私にとって、この映画は完璧である。たとえ全世界中の人にとってそうでなくても、これは私にとって完璧な映画だ。嫌いなところはどこにもない。いやなシーンはひとつもない。ちなみに私にとって完璧なのは劇場公開版であって、SEE版ではない。SEEはＤＶＤとしては最高に楽しい。原作ファンとしてはこちらが完璧であるだろうと思う。だけど、原作をなめるように読んだ今でも、劇場公開版の方が、私は好きだ。音楽と映像のタイミングの見事さは、当たり前だけれどもSEEにはないもので、セリフの間、映像の間、そういった全てが計算し尽くされている。このタイミングしかない、という所に必ずセリフか音楽があり、見ているものを飽きさせない。もちろんSEEも苦しいほどに愛しているけれど、映画としてはやはり劇場公開版に分があがる。 この年になるとなかなか、新しいものは好きにならない。もう一通り色んなものを好きになったり追っかけたりしていると自分では思っているし、自分の趣味も嗜好もハッキリと自覚してくる。なにより、なにかに夢中になるのは圧倒的なパワーが必要になるからだ。 だから、そのパワーを生み出し、引き出し続けてくれているこの作品に感謝したい。こんなにも夢中にしてくれたことに何よりも感謝を。この世界にとりつかれてから、私は明らかに元気になったと思う。 楽しい毎日を、どうもありがとう。 この「楽しさ」という指輪を、私は到底捨てることが出来そうにありません。 |